はじめに
「最近、気分の浮き沈みが激しい」「疲れやすくなった」「体重が落ちにくくなった」――
40代以降の女性からよく聞くこの悩みの多くは、更年期におけるホルモンバランスの変化が関係しています。
特にエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減少すると、
自律神経の乱れ、代謝低下、筋力低下、睡眠の質の低下などが起こりやすくなります。
しかし安心してください。
実は、正しいトレーニング方法を取り入れることで、ホルモンバランスを整え、心と体をラクに保つことができるのです。
この記事では、パーソナルトレーナーの立場から、
更年期女性が無理なく続けられる「ホルモンバランスを整えるトレーニング方法」を丁寧に解説します。
第1章 なぜ更年期にホルモンバランスが乱れるのか?
40代を過ぎる頃から、「以前より疲れやすくなった」「ちょっとしたことでイライラする」「何となくやる気が出ない」――。
このような体や心の変化を感じている女性は多いでしょう。
その背景には、ホルモンの急激な変動が関係しています。
更年期に大きく影響するのは、女性ホルモンの一種「エストロゲン」。
このホルモンは、女性の心身を若々しく保つための“天然サプリメント”のような存在です。
しかし、40代後半から卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量が急激に減少します。
すると、自律神経のバランスが乱れ、体温調整・睡眠・感情コントロール・代謝などに影響が出てくるのです。
▼エストロゲンが減ると起こる主な変化
- 自律神経の乱れ → ほてり、めまい、動悸、不眠
- 筋肉量の減少 → 基礎代謝の低下、冷えやすさ、太りやすさ
- 骨密度の低下 → 骨粗しょう症のリスク上昇
- 精神面の変化 → イライラ、落ち込み、集中力の低下
一方で、ホルモンの乱れは「一生続くわけではない」ということも覚えておきましょう。
この時期をどう過ごすかで、50代・60代以降の体の快適さが大きく変わります。
そして、“トレーニング”はそのバランスを整えるための最も自然で副作用のない方法なのです。
「ホルモンの変化は止められない。でも、体の“反応”は変えられる。」
これが更年期トレーニングの本質です。

第2章 ホルモンバランスを整える運動の基本原則
更年期のトレーニングでは、「頑張らないこと」が最大のコツです。
若い頃のように「脂肪を落とす」「筋肉を増やす」といった目的ではなく、
“心身を整える”という視点で運動を取り入れましょう。
① 無理のない強度で「血流を良くする」
エストロゲンが減少すると、血管が収縮しやすくなり、冷えやむくみが起こります。
そのため、更年期のトレーニングでは「筋肉を使って血液を循環させること」が大切です。
軽いストレッチやウォーキングでも、血流改善=ホルモンの巡り改善につながります。
② 「呼吸」を意識して自律神経を整える
更年期の不調の多くは、自律神経の乱れからくるもの。
深い呼吸を意識するだけで、副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が落ち着きます。
ヨガやピラティスなど、呼吸法と姿勢を重視する運動が特に効果的です。
③ 「完璧主義」より「継続」を優先
体調に波がある時期なので、「毎日やらなきゃ」と思う必要はありません。
週2〜3回、10分でも良いので続けることで、ホルモン分泌や代謝のリズムが安定してきます。
「今日は体を動かせた」という小さな達成感を積み重ねることが、何よりも大切です。
④ 「整える」運動を中心に
強度が高い筋トレや長時間のランニングは、**ストレスホルモン(コルチゾール)**を増やしてしまうことがあります。
すると、エストロゲンの働きを邪魔してしまうことも。
そのため、ストレッチや姿勢改善トレーニングなど、リラックス系の運動を中心に組むのが理想です。

第3章 ホルモンバランスを整える具体的なトレーニング方法7選
では、実際に更年期女性が無理なく取り入れられる「ホルモンバランス改善トレーニング」を紹介します。
すべて、自宅でもOK。朝・夜の隙間時間で続けられる内容です。
① 深呼吸ストレッチ(朝2分)
朝起きたら、窓際で深呼吸しながら背伸びをしましょう。
夜の間に浅くなった呼吸を整えることで、自律神経がスムーズに切り替わります。
【やり方】
- 両腕を上に伸ばしながら、ゆっくり5秒吸う
- 胸を開きながら口から5秒吐く
→ これを5回繰り返すだけでもOK!
② ウォーキング(1日20〜30分)
有酸素運動は、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを増やし、ストレス軽減に効果的。
ポイントは“早歩きしないこと”。
会話ができるペースで歩くのが、ホルモンバランスにとってベストです。
③ スクワット(下半身の血流促進)
スクワットは「第二の心臓」と呼ばれる脚の筋肉を刺激します。
脚を動かすことで全身の血流が良くなり、エストロゲンの運搬もスムーズに。
【やり方】
- 肩幅に足を開く
- 背筋を伸ばし、椅子に座るようにお尻を下げる
- ゆっくり戻る(10回×2セット)
膝を痛めないように、浅めから始めましょう。
④ プランク(体幹の安定)
姿勢の崩れはホルモンの働きを乱す原因にも。
プランクは、体幹を整え、姿勢を美しく保つトレーニングです。
【ポイント】
- 肘とつま先で体を支え、一直線をキープ
- 20秒〜30秒を2セット
疲れた日は膝をついてもOKです。
⑤ ヨガ(呼吸と心の安定)
特におすすめなのが「チャイルドポーズ」。
自律神経をリセットし、気持ちを穏やかに整えます。
【方法】
- 正座の姿勢から上体を前に倒す
- 額を床につけて、5回深呼吸
→ 頭を低くすることでリラックス効果が高まります。
⑥ ピラティス(呼吸筋と姿勢)
ピラティスは、インナーマッスルを使って体の内側から整える運動。
呼吸を意識しながら動くことで、ホルモン分泌を促す自律神経に直接アプローチします。
週1〜2回でも、体の軽さや姿勢の変化を実感できます。
⑦ ヒップリフト(骨盤底筋の強化)
更年期になると、骨盤まわりの筋肉が弱まり、姿勢や血流に影響します。
ヒップリフトで下半身の筋肉を活性化し、ホルモンを整える「土台」を作りましょう。
【やり方】
- 仰向けで膝を立てる
- 息を吐きながらお尻を持ち上げる
- ゆっくり下ろす(10回×2セット)
💡 ポイント:どれか1つでもOK!
毎日7つ全部行う必要はありません。
「朝はストレッチだけ」「休日はウォーキング」など、自分の体調に合わせて選びましょう。
「続けられること」がホルモンを整える最大の秘訣です。
第4章 トレーニングで得られる3つの変化
更年期の運動は、単に「体を動かす」ことではなく、体の内側を整えるケアです。
継続することで、ホルモン分泌・自律神経・代謝などの生理機能が改善され、
次のような3つのポジティブな変化が現れます。
① 睡眠の質が上がる
更年期に多い悩みのひとつが「眠れない」「途中で目が覚める」という不眠。
これは、エストロゲンの減少による体温調整機能の乱れや、自律神経の興奮が原因です。
トレーニングを習慣化すると、深部体温が上がって下がるリズムが整い、自然な眠気が訪れるようになります。
特に夕方のウォーキングや軽いヨガは、交感神経を適度に刺激した後に副交感神経を優位にするため、睡眠の質を高めます。
💡 トレーナーのアドバイス
寝る直前の激しい運動は逆効果。
夕食後〜就寝2時間前に、ストレッチや深呼吸で「体をリセット」するのがベストです。
② 代謝が上がり、太りにくくなる
更年期女性の多くが「食べてないのに太る」「お腹だけ出てきた」と感じます。
その原因は、筋肉量の減少+基礎代謝の低下。
筋肉はホルモン代謝にも関与するため、筋力を維持することがホルモンバランスを支えるカギです。
特にスクワットやヒップリフトなど、下半身を使うトレーニングは成長ホルモンの分泌を促し、脂肪燃焼をサポートします。
筋肉が活性化すると、体温・血流・代謝が整い、自然と“太りにくい体”に変わります。
③ 心が安定する
更年期はホルモンの変化だけでなく、家庭・仕事・親の介護など、心理的ストレスも重なりやすい時期。
そんな中で運動は「心のリセットボタン」のような役割を果たします。
有酸素運動によって分泌されるセロトニン(幸福ホルモン)やドーパミン(やる気ホルモン)は、
イライラや不安を軽減し、感情の浮き沈みを穏やかにしてくれます。
「トレーニングを始めたら前向きになった」「気持ちが軽くなった」という声は多く、
これは単なる気分ではなく、脳内ホルモンの変化によるものです。
第5章 実際に改善した3人のケース
ここでは、私が実際にサポートしてきた更年期世代の女性3名のケースを紹介します。
どの方も「激しい運動は無理」と感じていましたが、小さな継続が心身の変化をもたらしました。

【ケース1】50代前半・主婦Aさん(不眠・冷え性に悩んでいた)
Aさんは、夜中に何度も目が覚めてしまい、朝は倦怠感で一日が始まる状態でした。
運動は苦手でしたが、朝に深呼吸ストレッチ+軽いウォーキングを提案。
1ヶ月ほどで「夜にスッと眠れるようになった」と実感。
冷えも改善し、「体がポカポカして動くのが楽しくなった」と笑顔に。
トレーナーの視点:
深呼吸とウォーキングは、血流と自律神経の両方を整える黄金コンビ。
ホルモンバランスを整える第一歩に最適です。

【ケース2】40代後半・会社員Bさん(体重増加・イライラ)
Bさんは、仕事のストレスとホルモン変化が重なり、2年間で5kg増加。
週3回、会社帰りに20分のウォーキング+週末のスクワットを習慣化。
3ヶ月で−3kg達成し、「気分が安定して仕事の集中力も上がった」と変化を実感しました。
トレーナーの視点:
“頑張りすぎない継続”がホルモンバランスを安定させます。
短期間の成果より、生活の一部に運動を溶け込ませることがポイント。

【ケース3】50代後半・パートCさん(肩こり・疲労感)
Cさんは「いつもだるい」「肩が凝って家事がつらい」と来店。
週1回のピラティスと自宅でのヒップリフトを続け、3ヶ月後には姿勢が改善。
「最近、鏡を見るのが楽しい」と自信を取り戻しました。
トレーナーの視点:
骨盤周りや姿勢が整うと血流が良くなり、ホルモンも安定。
見た目の変化が“心の変化”を引き出す好循環を生みます。
第6章 トレーニングを続けるための3つのコツ
トレーニングは「やり方」よりも「続け方」が大切です。
どんなに良いメニューでも、1週間でやめてしまえば効果は実感できません。
ここでは、更年期女性でも無理なく続けられる3つの工夫を紹介します。
① 「できる日だけでOK」と決める
ホルモンの変化で、体調に波があるのは自然なこと。
「今日は疲れたから休もう」と思う日があっても大丈夫です。
大切なのは“罪悪感を持たない”こと。
1日休んでもまた再開できれば、それで十分です。
「完璧にやる」より「辞めないこと」が結果につながります。
② お気に入りのウェアや音楽で“気分を上げる”
モチベーションを維持するコツは「気分を前向きにする環境づくり」。
お気に入りのトレーニングウェアや、好きな音楽をかけながら動くだけで、脳内のドーパミンが増え、自然とやる気が出ます。
「気持ちいい」と感じることが、長く続ける最大の原動力です。
③ 「無理せず休む」もトレーニングの一部
疲れが抜けない日は、思い切って“休む勇気”を持ちましょう。
筋肉やホルモンの調整には回復が不可欠。
休息によって成長ホルモンが分泌され、翌日の体調が整います。
ストレッチや深呼吸だけでも立派なセルフケアです。
💬 トレーナーからのメッセージ
更年期の体は「がんばり」よりも「いたわり」で変わります。
自分を追い込む運動ではなく、整える・癒やす・リセットする運動を。
続けるほどに、ホルモンも心も穏やかに安定していきます。
第7章 ホルモンバランスを整える生活習慣もセットで
トレーニングは更年期ケアの“中心”ですが、日常生活の整え方も同じくらい重要です。
なぜなら、どんなに良い運動をしても、睡眠・食事・ストレス管理が乱れているとホルモンの働きが十分に発揮されないからです。
ここでは、トレーナーが実際の指導現場で伝えている「ホルモンを整える3つの生活習慣」を紹介します。
① 睡眠を最優先に(22〜6時の間に6〜7時間)
更年期に多い不調の根底には、「睡眠の質の低下」があります。
睡眠中には、成長ホルモンやメラトニンが分泌され、体の修復・ホルモンの再調整を行っています。
特に夜10時〜深夜2時の時間帯は、ホルモン分泌のゴールデンタイム。
この時間にしっかり眠ることで、体内時計が整い、エストロゲン分泌のリズムも回復します。
💡 ポイント
スマホやパソコンの光(ブルーライト)は、脳を“昼間”だと錯覚させます。
寝る1時間前にはデジタル機器をオフにして、照明を落としましょう。
寝る前の「軽いストレッチ」や「深呼吸」も、眠りのスイッチを入れる効果があります。
② 栄養バランスを意識した食事(タンパク質・鉄・ビタミンB群)
ホルモンバランスを整えるには、“食べること”も大切なトレーニングです。
特に不足しがちな栄養素を意識するだけで、体の調子が大きく変わります。
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 筋肉・ホルモン・酵素の材料 | 鶏むね肉、卵、大豆、魚 |
| 鉄 | エネルギー産生・貧血予防 | 赤身肉、レバー、ほうれん草 |
| ビタミンB群 | 代謝・神経の安定 | 玄米、ナッツ、豚肉 |
さらに、大豆イソフラボンはエストロゲンに似た働きをするため、更年期の女性におすすめ。
豆腐・納豆・豆乳などを毎日の食卓にプラスしましょう。
🥛 トレーナーの豆知識
「運動 × タンパク質 × 睡眠」は、更年期の三種の神器。
トレーニングで使った筋肉を栄養と睡眠で修復すると、ホルモンが安定し、代謝も上がります。
③ 「リラックス時間」を意識的に作る
更年期は、自分でも気づかないうちに**ストレスホルモン(コルチゾール)**が増えています。
ストレスが溜まると、自律神経が乱れ、ホルモンの分泌リズムが崩れてしまいます。
そこで意識したいのが、1日の中で“力を抜く時間”をつくること。
たとえば――
- 湯船に10分つかって、肩の力を抜く
- 好きな音楽を聴く
- アロマを焚いて呼吸を整える
- カフェでボーッとする
こうした「何もしない時間」が、ホルモンにとって最高の回復タイムです。
💬 トレーナーのひとこと
“頑張りすぎる女性”ほど、ホルモンは乱れがちです。
自分を責めるより、少し甘やかすくらいでちょうどいい。
「何もしない日」も立派なセルフケアです。
④ 「整える」をテーマに生活をデザインする
ホルモンバランスを整えるために大切なのは、
「やる」「頑張る」よりも、「整える」「満たす」意識です。
たとえば――
- 朝:軽くストレッチして深呼吸
- 昼:10分でも外に出て光を浴びる
- 夜:お風呂・ストレッチ・早めの就寝
このようなシンプルなリズムを作るだけでも、
自律神経とホルモンの波が整い、気持ちの浮き沈みが少なくなります。
まとめ 「頑張らなくていい」トレーニングがホルモンを整える
更年期は、「女性としての終わり」ではなく、「新しい自分にアップデートする時期」。
ホルモンの変化は誰にでも訪れる自然なプロセスです。
その波を「怖い」と思わず、**“整えるチャンス”**と捉えましょう。
トレーニングを通じて血流を良くし、
心と体のリズムを取り戻すことで、エストロゲンが減ってもバランスを保てるようになります。
🌿 今日からできる行動ステップ
- 朝起きたら、ゆっくり5回の深呼吸
- 週2〜3回、20分のウォーキング
- 夜はスマホを早めに手放してストレッチ
- 1日1回、「ありがとう」を声に出す(ポジティブ思考の習慣化)
「頑張らなくても、ちゃんと整う」
これが、更年期を健やかに過ごすための一番の秘訣です。
あなたの体は、まだまだ変わります。
焦らず、自分を大切に、今日から“心地よく動くこと”を始めてみましょう。

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